走る64歳   

普段街中で全力疾走を見かけることは希で、だからたまに地下鉄の通路などで一人歩く私の後ろから駈けてくる小刻みな足音には、わけもなく身構えてしまう。
カッカッカッカッ。
ただ闇雲に走りたくなる衝動だってあろうが、おおよそ走る人には走らなければならない"訳アリ"のはずで、それは待ち合わせやなにかの定時に間に合わせるための行為だったりするのだろうし、たまには誰かを追いかけていることもあろう。
いうまでもないが"走る"行為には、それなりの事情があるはずだ。
たいがいはその事情先は私にはないので、だから何事もなく追い越され、なぜか少しくホッとする。もしくはただ走りたい人が走って、ただ私を追い越しているのかもしれないのだが、そんなのは未確認だ。

"走る"には、目的に向かうベクトルの走りと、なにかから外れるためのベクトル、いわゆる逃げるための走りの二通りがあるが、社会生活においてはほとんどは前者であろう。顔つきを見れば容易に判断できる逃げるために必死に走る人を、せめて一度くらいは見てみたいものだが、まだその機会に恵まれない。
さらに言うなら、目的のために必死に走れる人の、その多くは若者である。
42歳の私の例を引くと、少し走った程度で行程に掛かる時間が数分ばかり短くなってもさのみ大局に影響なしと、もはや無闇には走らない。
もちろん体力の問題もあろうさ。

ランチタイムがあと5分で終了だ。
走らないね。
走れれば10分の遅刻が7分になるかもしれない。
走らないな。
オリバー君来日。
走らない。

つまりこの歳にもなると、走るにはかなりの事情を要することになるわけだ。
64歳が走る。ここにはかなりの事情が察せられる。

おそらくまだ書店に並んでいる『日経エンタテイメントMOVIE DX 6月増刊号「ダ・ヴィンチ・コード」詳細謎解きBOOK』の87ページに、64歳の石坂金田一耕助全力疾走の写真が掲載されている。
一体なにがあったのだろうか。言うまでもない。殺人事件があったのだ。

もちろん(たぶん)殺人現場に向かう金田一耕助の走りである。まさか現場から一目散に逃げる金田一だったらビックリだが、そんな設定をも覆す大幅な脚本の変更はありえないだろう。
なかなか64歳の疾走は、見られるものではない。こうして石坂浩二もスチルでとらえられてしまうと、30年という経年を思わずにいられないが、ムービーでならもう少しは若々しく見せてくれることを期待しつつ、それが物語の中であるにしろ、目的に向かい走れることをちょっぴりうらやましくも思うのだった。
こと私にとっての、若さへの証。
よし今度走ってみるか、たとえ些細なことでも。
近くのスーパー、タイムサービスで卵が大安売り。
走るよ、息せき切って。もうなんだって。

さて、興味を持たれた方は是非『日経エンタテイメントMOVIE DX 6月増刊号「ダ・ヴィンチ・コード」詳細謎解きBOOK』をご覧ください。
それにしても、そのスチル、石坂浩二の下駄あたりから判断すると切り抜いて合成された風に見えるのだけど、どうなんでしょう。合成だとすると、なんでまた?

それと情報をもうひとつ。
この『犬神家の一族』の公開日が、2007年から今年12月に修正されたそうです。
おそらくは秋の東京ファンタスティック映画祭出品で初披露、そのあと一般公開、という段取りなんでしょうか。
このあたりの事情、意外とクランク・インしてみたら市川監督が元気なんで、ポストプロダクション(編集・音入れなど)も半年掛けずに順調に進むと判断が改められたのか、はたまた別の理由でもあるんでしょうかね。謎。

by wtaiken | 2006-06-02 01:42 | 犬神さん一家情報

<< 人間だもの 深キョン >>