2017年の映画館鑑賞映画ベスト10指に早くも確定「ラ・ラ・ランド」   

プレゼンターのウォーレン・ベイティに渡した封筒を取り違えたとか、すでにその段階で主催運営者たちの大失態であったわけだが、間違った最優秀作品賞タイトルが全世界へ向けて大々的に発表され、間違ったスタッフ、キャストらが登壇をし、間違った何人かのスピーチが行われている段になってからようやく訂正が入るという、その対処の鈍重さこそがより権威を貶めてしまった感のある今年のアカデミー賞。89回という長い歴史があればそんなこともあるさ、では到底済まされないひどい話だった、そのとり間違われてしまった方の、大本命だったのにオスカーからは嫌われてしまった「ラ・ラ・ランド」は昨年末の全米公開時から各方面の絶賛を聞いていたので、オスカーをとるとらないに関わりなく当然期待を大にして観に行ってきたわけだけど、その膨らむ期待に違わぬとてもいい映画だった。こりゃもう確実に、今年観た映画のベスト10に、確実に入ってきます。

個人的にはいまひとつ乗り切れなかった前作の音楽超絶バトル映画「セッション」がデミアン・チャゼルの長編映画デビュー作であったから、よってこの「ラ・ラ・ランド」は監督の第2作目なわけで、それでこんな映画つくっちゃうってんだからちょっと恐るべき新人監督さんだよ、史上最年少でのオスカー最優秀監督賞も頷ける話だ。とるとらないは関係ないと思いつつ、そりゃ穫ったら穫ったで喜ばしいよね、特に気に入った映画のともなれば。

とにかくこの「ラ・ラ・ランド」は、上映時間2時間の間どっぷりと映画の世界観に浸れたし、恥ずかしい表現をするならば、映画全編のなにもかもが愛おしくなってしまった映画でした。
いわゆるこの映画を大きく括ってしまうなら「前に進むために、あるいは夢を掴むためには、なにかを大事なものを捨てなければならない」モチーフが描かれ、最近ではたとえば「インターステラー」にもこのモチーフが活かされているし、「インサイド・ヘッド」なんかもろそこが映画の泣かせどころだったりする、主人公の成長譚や成功譚には欠かすことのできない普遍的なものではあるけれど、コロコロ変わる表情がキュートなエマ・ストーンや、少し猫背なライアン・ゴズリングの哀愁感たっぷりなピアノ弾き姿、そして切ない音楽が相まって、グググと来ないわけにはいかないのだった。ラストに向かって、怒濤のように描かれる、ありえたかもしれない別の道を思い描くシークエンスなんかも、私はさすがに堪えたけれど、ふたつ隣りの女性が鼻すすり上げるくらい切なくって、いいんだよなあ。だらだら蛇足的に余韻を引きずらずに、スパッと潔よすぎる終わり方も、私は好みだ。
まあなんにせよ、オープニングでの、かなり大掛かりな撮影だったろうミュージカル映画堂々宣言シークエンスからして最高だったわけで、いやあ「映画って、ホントにいいものですね!」が出たね、久しぶりに。ほぼ完璧な映画としてカウントされましたよ。もちろんもう一回は観にいくつもり。

でもあえてひとつだけ苦言を呈するならば、ピアノ弾き姿では気にならなかったライアン・ゴズリングの上半身が、全身をとらえたダンスシーンではちょっと鍛え過ぎな胸板に観えてしまい、如何にもアクション映画も同時にこなしてきました感ありありだったところが、ううん惜しい!って感じ。なにせフレッド・アステアの、なで肩スマートなスタイルこそがミュージカルには最高だと思っている私としては、そのガタイが良すぎたところが気になってしまった。その点、エマ・ストーンは、痩身なスタイル、如何にも愉しげな表情に振り、ミュージカルのダンサーとしてはベストでした。
この映画をして往年のハリウッド・ミュージカルを見事に復活させた、とはまったく思わないし、これをきっかけに雨後のタケノコのようにミュージカル映画が量産されるとも思っていないけど、新しい感性による、新しいミュージカルアプローチによる傑出した映画が生まれたことはうれしい限りだ。もうかなり前になってしまうけど、「(500)日のサマー」なんかも主人公が突然歌い出すミュージカル・パロディーを取り入れる良作もちょいちょい生まれているので、灯を絶やさないよう頑張ってほしいものだなあ。あまり正攻法すぎる「レ・ミゼラブル」系のミュージカルは、私の好きな範疇ではないんだけど。

世の中には、特に日本においてはかなり多くの「ミュージカル・アレルギー」を示す人がいるけど、観ていて首もとあたりが痒くならない、肯否どちらの派閥にも属さない中立派くらいならば軽く推奨をし、もしも「ミュージカル結構観ます」な人だったらもう前のめりで「今すぐ観てきなさい。」と是非オススメをする、とにかく映画を観ている間は "幸福感" に満たされる映画です。オスカー最優秀作品賞? そんなのとったかとらなかったかなんて関係ない、傑作の一本になりますよ。

そんなわけで、「2016年映画館鑑賞映画総括」を一回休んででも、イレギュラーに、鉄が熱いうちにタイムリーな映画評を書いちゃいました。

by wtaiken | 2017-03-05 03:18

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