ロケはつらいよ。北海道篇   

羽田から飛行機で北海道へ、機中の約1時間半を快適に過ごしたい。

6月のオーストラリアロケでは、移動中鼓膜が破裂するかというくらい気圧の変化に耳が激しく痛かった苦い経験に学び、前日かかりつけの耳鼻咽喉科で鼻から耳の通路に空気を流し、通りをよくしてもらった。調べたところによると、風邪っぴきであった場合、つまり鼻づまりのままに飛行機に乗ると「航空性中耳炎」になりやすく、なるほど確かにロケ中は突発的に咳き込む風邪を引いていた。耳と鼻とは細く短い管でつながっているから、鼻の換気がよくないと気圧の変化に鼓膜の調整がしずらくなる、ということらしい。

「別段耳も鼻も悪くはないが明日飛行機に乗るので」と来院の旨を伝え、「ではやっておきましょう」ということで鼻から管を入れられ、耳には別の管を差し込み、なにか機械的なものからエアーをプシュープシューと幾度か送り込まれる貫通治療を施されたのだが、「あれ? なんか通りが悪いな」とつぶやかれたうえに、エアーを送り込む機械的なものを止めたあと「飛行機は乗っちゃダメです」だの「確実に耳が痛くなる」とも予言されてしまい、安心のための治療がむしろ不安を呼び覚ます逆効果となってしまった。

飛び立って高度を徐々にあげていく間は何度かツーンと鼓膜が張り詰め、思いっきりツバを飲み込んだり海に潜るときの耳抜きをしたりして、どうにかこうにか耳の激痛は回避されたが、ここで安心してうっかり眠るわけにはいかないのだ。そのまま熟睡をし、飛行機が着陸の準備にかかり高度を下げはじめても、寝入ったままだと私は耳抜きも、ましてやゴクリとツバを飲み込むことさえできないからだ。寝てはならない。だったらなにか1時間半の空白を埋める適切な過ごし方はないものか。

音楽を聴くのは、イヤホンがどうも鼓膜の圧迫を助長しているようだから嫌だ。どうでもいいバラエティー番組でも観て時間をつぶすのはどうかと思ったが、国内線のすべてがそうかどうかは知らないが、モニターのサービスがない。
となれば...やはり本か、ここは本だな、本しかないのだな。しかし混み入った類いの小説はダメだ。途中で眠くなることも考えられるし、逆に集中しすぎると中断されるのが嫌だ。お気楽に読める本、そしていつ何時でもバタンと中断できる本、今の私にはそれだ、それしかない。
だから私はまさに時間つぶしにうってつけな、新書本サイズの分厚い本「電気グルーヴのメロン牧場—花嫁は死神 5 」を一冊携帯したのだった。

それはかれこれ17年にも及ぶ、ロッキング・オン・ジャパン誌上に連載をつづけている石野卓球とピエール瀧、連載当初は脱退前のまりんという電気グルーヴのメンバーと編集部のものたちとのあまりにもどうでもいいバカバカしい語り下ろしをまとめたもので、この単行本はトイレで気軽に読める「便所本」をコンセプトとしており、まさに1時間半のひまつぶしにもってこいだったし、ドンピシャなタイミングでアマゾンからちょうど最近刊行された最新刊が届いたところだったのだ。

「オレこないだウ○コもらしちゃってさー」といった、徹底的などうでもいい二人の雑談ぶりはさすがに17年も続くと名人芸の域に達している。下ネタ一筋17年。( 一筋ではないが ) なにごとも続けることが肝要だ。1刊や2刊の頃と比べるとずいぶん下ネタ頻度も落ちてきてはいるが、話のどうでもよさ具合は相変わらずなので、どこで本を閉じようとも「雑談の途中だけど、またあとで聞かせてください」くらいのカジュアルな付き合いの出来る、一切の後腐れがない本なのだ。
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機は高度をあげる上昇飛行から安定した高度を保つ水平飛行になっておよそ10分程度で「まもなく当機は着陸に向け高度を下げてまいります」ときた。それでも到着まで1時間弱はあろうか。
本好きでありながらも、じーっとひとっ所で長い時間を読書することの苦手な私は、集中力の継続は30分が限度だ。
一旦本を閉じてひとつ欠伸をしながら大きく背伸びをし、辺りを見回してみた。羽田から飛び立って30分強、ぼちぼち眠り出す人が頻出する中、12C席の私の斜め前、つまり11Dに座る女性が、自分のイヤホンを耳にしつつ、ひたぶるに本と向き合っている。
まだ20代と思われるうら若き女性が、いまどき活字好きなら電子書籍もあろうものを、嵩張る本を持ち歩き、それを機内で寸暇を惜しむように読んでいる姿が私には奇特に思えた。私が本好きだからこそ、余計に気になってしまう。彼女は一体なにを読んでいるんだろう。

本はずいぶんと安っぽい感じのザラついた紙質で、1ページに上下2段組み、その下段のその下には少し文字が小さめな注釈のようなものが添えられいるようだ。新書サイズでずいぶんと分厚く、不審者に思われない程度に覗き込み辛うじて視認できた文章が、
一同「 (笑) 」
って、おいそりゃ私の持っている「電気グルーヴのメロン牧場—花嫁は死神」と同じじゃないかい。

そりゃまあ電気グルーヴだ、ファンも多かろうし、本だってずいぶんと多くの読者を得ていよう。だからって、こんなにも近くに、「電気グルーヴのメロン牧場—花嫁は死神 5 」を「おおよそ1時間半のフライトを最適に埋めてくれる本」、きっとそう考えたに違いない同志がいようとはね!

「おや、おんなじですね」だなんて展開にはもちろんならない。奇異な偶然は偶然のままに話はここで唐突に終わるのだが、「ロケはつらいよ。北海道篇」は、もう少しだけつづくのだ。次回をお愉しみに。

by wtaiken | 2014-11-13 23:44 | ああ、監督人生 

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