続・いまさらながらのBlu-ray版批評   

昨日で書ききらず今日起きてからも書き連ねていたのだが、まだまだ先は長くなるので、クライテリオン版「天国と地獄」、国内版「悪い奴ほどよく眠る」、そして再びクライテリオン版「用心棒」 & 「椿三十郎」レビューまでを昨日分として一旦締めて、改めて本日もBlu-ray画質レビューの、果たして "続" で終わるのかしらの続きです。

昨日の分、実は昨年の夏に観たBlu-rayの話。ずいぶん温めていたものだが、本日は今年分のレビューであり、そしてクロサワ映画にとどまらず、これも昨年から発売されている小津安二郎リマスタリング、さらにはとあるアニメ作品にも言及する予定ですが、予定はあくまで予定であって、決定ではない。

本日もまた時間の合間合間に書きていくつもりなので、気長におつき合いください。


クライテリオン版「隠し砦の三悪人」

いきなり "ちなみ" ますが、どうやら北米版Blu-rayのリージョンコードは日本と同じAなんだそうで、そりゃなにも心配せずに観られるわけだよ。

さらに "ちなむ" と、いまAmazon.co.jpで買えるクライテリオン・コレクションの黒澤映画は、昨日紹介の「天国と地獄」、「用心棒 & 椿三十郎」、そして「羅生門」に「七人の侍」、そして「影武者」の以上 6 作品。
しかしAmazonが世界中のすべての物品を取り扱っているわけではなく、先日何の気なしにヤフオクで「隠し砦の三悪人」を検索したところ、クライテリオン版がひっかかり、どうやら今年になって発売された模様のその出品物を廉価にて購入。久しぶりに早速視聴。

そのオークションに掲載された宣伝文句をそのままペーストするとー

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美姫と黄金を守り敵中突破 ! 勇壮! 豪快! 冒険娯楽活劇巨篇!!
黒澤監督が初めて手掛けたシネスコ作品であり、大胆な構図、スクリーン全体に張り詰めた緊張感とダイナミズムで観る者を圧倒。
ジョージ・ルーカスも『スター・ウォーズ』のアイディアを得たという第一級の娯楽作品。

米国クライテリオン社が新たにデジタルHDスキャングし、素晴らしいレストアによる高画質&高音質で登場。
日本盤をはるかに超えるクオリティに仕上がっています。


ということなんだそうだ。もうクライテリオン社からのリリースであれば、いちいち画質の話をすることもなかろう。

久しぶりに観た映画は、やっぱり新人上原美佐演じる雪姫が、演技云々なんかを超越した神々しい立ち姿が本当に良い。と思ったね。姫役はこうでなくっちゃ。
そしてなんといっても儲け役田所兵衛を演じた藤田進がやっぱりいい。
この役、なんと先代松本幸四郎が配役されていたんだそうで、それが製作の遅延が原因で降板、そして監督とは旧知の仲藤田進が招聘された...というウラ事情は、製作ドキュメンタリー「創ると云う事は素晴らしい!」を観るとわかります。藤田進はもちろんいいけど、松本幸四郎演じる田所兵衛もちょっと観たかった。

で、その「創ると云う事は素晴らしい!」以外の気になる特典映像は、ジョージ・ルーカスのインタビューと予告篇のみ、そのルーカスインタビューも英語のヒアリングが達者じゃなけりゃ意味わかんないしで、「徹子の部屋」ほどのサプライズなものがなかったのは残念。

個人的に期待したのは、例の、私が黒澤映画をはじめて観るきっかけとなった70年代後半から80年代にかけて次々とオンエアされたフジテレビ黒澤明映画特集で、この「隠し砦の三悪人」の時に特別収録された、千秋実、藤原釜足、黒澤明、そしてなんと上原美佐嬢まで参加の対談を、是非収録してほしかったのだが...。

と、それにしても賢明な方がおられるもので、当時それを録画しておき、長いことしっかり保存をし、そしていまYoutubeにアップしてくれている人がいるってんだから、なんというか、懐かしくも有り難く拝見させてもらいましたよ、ホント。

ここで皆様にも是非共有していただきましょう。
そしてこのメンバーが誰一人として今もうこの世にいらっしゃらないのかと思うと、ますます感慨深いものがございますし、また晩年の黒澤明の周囲には、こういった昔っからの、丁々発止とものの言い合える "黒澤組" といわれた面子が誰一人も残らなかったというのも、なにか寂しくも感じられる映像ではありますが...




上原美佐、声変わんないなー。この「隠し砦...」以降、岡本喜八の映画とかわずか数本で引退しちゃった彼女が、引退後にこうしてテレビに出演したってのは、対談とはいえかなり貴重な映像だろうと思う。もっとキレイな画質で観たいものだが。

そういえば昨日紹介の「椿三十郎」とこの「隠し砦の三悪人」って、一時期安易なリメイク企画で再映画化された 2 本。
その頃ってよっぽど黒澤プロが財政難だったからなのか、そのあと性懲りもなく崔洋一 ( だったかな?) による「用心棒」まで製作される一歩手前だったはず。
織田裕二の三十郎にまったく興味がわかないのと同じレベルで、長澤まさみの雪姫も私には限りなく魅力ゼロに近い配役だ。
この 2 本は、拷問をされても決して観ない映画だろうと思う。


クライテリオン版「七人の侍」

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平八の描いた 「た」は田んぼの「た」、だから農民、はオレたち侍、ちっ、なんでえ 6 つ しかねえじゃないか、オレはのけ者かい、いやこの △ が菊千代さまであられます、の旗がジャケット。これはシンプルでいい。

さてこの映画、画質よりむしろ音質がどれほど改善されたかが多くのファンの知りたいところだろうと思うが、私個人の記憶にあるより断然聞きとりやすく、特に高堂国典演じる長老のセリフなんかかなりクリアになってました。ただ時々農民らが声を限りに荒げるセリフは、もうまったくなにを言っているのか未だわからず。こりゃもう当時の録音技術では原版に限界があるのだと思う。

唐突にここでトリビアをひとつ。野武士ぶっさすだ!の利吉案に、思案しつつ発する長老のセリフ「やるべし!」は、のちの赤塚不二夫キャラ「べし」のもとである。
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映画は、木村功演じる若侍勝四郎の真っすぐな瞳が改めて印象に残ったのと、その恋仲になる農民 "津島恵子" 志乃の、意外や意外、今見るとかなりエロチックなところには刮目に値しましたね。

さて特典映像だが、各作品ごとの製作ドキュメンタリーに加え、晩年交流があったらしい大島渚が仕切る「わが映画人生」というタイトルの黒澤明インタビュー映像 ( 約 2 時間 ) も入ってます。
当時「朝まで生テレビ」などでの鋭い論客としても名を馳せていた大島渚が、ここでは真摯に大監督に向き合い、決して持論などをぶつけることなく淡々と、かつたまに笑い、一映画少年のように黒澤明から答えを引きだそうとしている姿が好感を持てます。
ときたま手がいじいじしてたりして、あ、大島、緊張してるな。というのも見て取れるしね。

最後の最後、映画監督を志す青年に一言、という大島のフリに、思いがあふれダラダラと話が長くなり出しかけたところで少し飽きたような表情を見せた大島渚が、まだ言い足りないけどどう云おうかというほんのちょっとできた黒澤の言葉の間をとらえ「今日はホントに貴重なお話、ありがとうございました」と早口でぶった切る幕切れは特に必見です。

by wtaiken | 2014-06-03 11:39

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