冬が来る前に   

夏のブロックバスター映画の感想を、やんごとなき仕事の事情で遅れて秋口に持ち越すならまだしも、ズルズル月日は流れに流れ、つい先日うっかり冬将軍を迎え入れてしまい、途端にマフラー手袋の欠かせない冬本番と相成ってしまったからには、「せめて冬が来る前には書き終えよう」といった誓いも虚しく、だったらここは潔く「もう書かない!」という選択肢もあるにはあったが、このブログでのやりっぱなして全うすることが少ないことに以前から忸怩たる思いがあり、ちょうどそれら夏に公開された映画のソフトがぼちぼち発売されるようなので、こりゃまた思いもかけず時節を得たりと、暇を見つけて一本一本書いていこうかなあという、今日がその第一回目というわけです。
確か感想は夏真っ盛りに、"鉄は熱いうちに打て" をシャレて、観た順番を無視し、鑑賞後早々に「マン・オブ・スティール」の前半を書き終えたところ。本来ならば引き続き「マン・オブ・スティール」について書くのが順当なのだろうが、装いも新たにしたことだし、今度は鑑賞順に行こうかと思う次第でー

「パシフィック・リム」ギレルモ・デル・トロ監督作 から再スタートです。

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8月17日 IMAX 3Dにて鑑賞
ここでの内容説明は省かせていただきますので、概要を知りたい方は各映画サイトの紹介文を参照のこと。

かなり極端に評価が割れている映画なんじゃなかろうかと思う。それは、たとえばみうらじゅん言うところの「怪獣愛がない」といった “根本から否定派” と「ニッポンの怪獣とロボット文化をよくぞハリウッドの巨大資本を得て映画化してくれた」といった “全面肯定派” の二極化であり、こうした振り幅の大きな映画こそのちのちカルト映画として残りうる資質があるのかもしれないが、私の評価はほぼ中庸派で、星5つ満点勘定でいうならば、ギリギリ星3つといったところ。けれどももし仮に「この日和見主義め、どっちの派閥に属するかハッキリしろ」とでも刃物をちらつかせ脅されたなら、速攻即座に “根本から否定派” にひょいと組するくらい悪い方の評価に片寄りのある、星勘定とは微妙に計算が合わない感じの中庸なのだ。

では具体的に「パシフィック・リム」のなにがダメだったのか、大きな理由を2つばかり挙げてみようと思う。


其の1
「カイジュウとイェガーと称されるロボットのデザインがなっていない」


「ミシンと洋傘の手術台のうえの、不意の出逢いのように美しい」
と、これは芸術運動であるシュルレアリスムを語るうえでよく引用されるロートレアモン伯爵の有名な言葉である。
と、突然私はなにを言い出したのかというと、これはそのまま宇宙忍者バルタン星人にも有効な一節なのであって、有機体のセミと無機物のハサミという相容れない2つをハイブリッドさせたとんでもないデザインである異星人の存在が、私たち世代には、シュルレアリスムなんて知らない幼少の頃から刷り込まれているという事実をまず言いたいのだ。
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世界に誇るべきジャパニーズ・ベリー・フェイマス・宇宙人

「そんなハサミの両手でいかに宇宙船を操作するのか」などと理屈から物事を考える硬い頭からは決して生まれないであろうデザイナー成田亨、彫刻家高山良策両者から生み出された画期的な造形物は、ずばりシュルレアリスト作家名から拝借した四次元怪獣ブルトンだったり、
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幾何学模様のツートンカラー宇宙人、これまた芸術運動略称拝借のダダ、
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昆虫的な角と爬虫類のハイブリッド、エレキングだったりと、
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この独創性に富んだ怪獣・宇宙人の数たるや枚挙に暇がないほど、これら世界に類を見ない造形物を浴びるように見せられ、かつ魅かれてきたウルトラ世代の ”肥えた目” からすると、「パシフィック・リム」に登場する ”カイジュウ” のどいつもこいつもが、ほとんど見分けがつかない似たり寄ったりの、魅力に乏しいデザインだった点が、もう根本的にダメだ。

こういった架空の巨大生物や巨大ロボットをメインに据えた映画は、その造形こそが肝であるべきなのに、カイジュウに止まらず、主たるイェガーと呼ばれる巨大ロボットもまたデザインがどうもいただけない。
たとえば「エヴァ」が当ったのは、”萌え” という言葉を広く世に知らしめた包帯姿の綾波レイもさることながら、あの骨格むき出しのような、ロボットの概念 (ま、ロボットじゃないけどさ) を覆したエヴァの造形も大ヒットの要因であったはずだし、逆にハリウッドのゴジラが大きくコケた要因のひとつが、ゴジラとは到底思えない稚拙なデザインにあったことは歴然で、つまりは映画イチバンの見所とすべきそこらがおろそかにされてしまっては、だったら我々は一体どこを観ればいいのだ、という話だ。

肯定派によると、ナイフヘッドというカイジュウは、昭和ガメラ登場のギロンやジグラへのリスペクトだとかなんとかいうが、まんま出刃包丁の頭してよ、そのうえそっから手裏剣まで飛び出す始末の、そのもうなんていうかなんでもアリのハチャメチャなデザインっぷりには、もう到底太刀打ちできていないと私は思うね。
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ナイフヘッドとギロン
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話は逸れるが、そういえば仮面ライダーにおいてもハイブリッドな怪人がいたっけかなあ。ハサミとジャガーでハサミジャガーだ。大砲とバッファローでタイホウバッファローだ。どんだけ強いものと強いものを掛け合わせれば気が済むんだというくらいの組み合わせがあるかと思えば、イカと火炎放射器でイカファイアだ。なんだそれ。

とまれ「昔はよかったです」でなにもかも帰結させてしまうことに嫌悪感を持ちつつも、こと「パシフィック・リム」のカイジュウ・ロボットの造形に関しては、昭和日本のデザインに足元にも及んでいないとつくづく思った。
なにより個人的には、フィギュアがまったく欲しくならないというのが、もはや致命的欠陥だ。

あと「クローバー・フィールド」の巨大生物もそうだったけど、ハリウッド製のカイジュウらは、なぜああもヌメヌメ動くんだ。身体力学なんていらないよお。もっとがっしり、どしんどしんと歩きなさい、と私はいいたい。あんなカイジュウで「本多猪四郎へ捧ぐ」もなにもあったもんじゃないです。


其の2
「カイジュウの劣悪デザインの一因は、もしかしたら全体像のとらえがたいカメラワークやカット割りなどの的確でない演出にあったのではないか」


最近、というかハリウッド映画の3D化を一気に加速させた「アバター」以降、ただの一本たりとも観るべき3D映画の成功例がないので (故に加速度的に衰退したわけですが) 、これもできれば2Dで観たかったところ、あいにくIMAX3D上映時間にしかスケジュールが合わず、もう仕方ないなあーと渋々観るという嫌な予感はズバリ的中して、3Dの良さはひとつもなかったうえ、ロボットとカイジュウの戦闘シーンの多くがクローズアップショットのひどく観ずらい撮り方 (フルCG) で、とにかくなにものも視認できず、スクリーンがガシャガシャ騒々しいなあと思っているうち、パイロットが突如「エルボーなんとかー!」と絶叫をしだし、ということはおそらくはイェガーのエルボー的なところからなにかが繰り出されているのだろうなと、なにがなにやらわからない画面からはこう憶測するしかなく、これで通常より高いチケット代をとられているのだからひどい話だよ、まったく。

こういったアップショットの多用は、東宝怪獣映画などに見られた巨大セット全景を見渡すロングめのショットよりも臨場感があり迫力が増す、などといった考え方から採用したのだろうが、被写体に近づきすぎてもダメだ。
もちろんすべてのショットを観やすくロングショットに、とは言わないが、戦いの状勢を説明すべきショットは入れるべきだと思う。
とにかく見せ方がどっしり腰を据えていないというか、王道感がわかっていないというか、この落ち着きのないバトルシーンを代表に、どうも映画全体が世界的に受け入れられて大ヒットする要因が欠落していると思った。
好意的にいうならば、巨額のハリウッド大作を手がけたところで、所詮ギレルモ・デル・トロの映画はどこか (いい意味で) B級感が漂っているということか。


逆に誉めるべきところは以下の通り。

其の1

相も変わらず未来のアジア描写は「ブレードランナー」の呪縛から解放できず、ネオンと雨の情景なのであったが、菊池凛子扮する森マコが映画に登場するシーン、巨大な蝙蝠傘をさしてヘリポートに立つ後姿、これはいい画だと思った。
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とまあ、菊池凛子の良さはただそれだけのことで、日本人のくせになぜか日本語が下手くそにしか聴こえない独特の言い回し、どうもへんな感じのおじぎなど、これまた相変わらずダメな日本の描き方が集約されてしまっていたなあ、だなんて結局誉めたことにならないという…。


其の2

映画冒頭、太平洋の裂け目から地球外生命体が送り込まれるというなんだかよくわからない無茶苦茶な設定描写もそこそこに、いきなりカイジュウが都市 (サンフランシスコ) を蹂躙し、それらに対抗すべく巨大兵器イェガー計画が発動されカイジュウたちに勝利し、民衆歓喜、ロボットの凱旋パレードがあり...などなど、このオープニングのニュース映像の、とにかく出し惜しみない感じには「なんだい、いきなりかいっ」とワクワクさせられた。
...ところがワクワクしたのはここまでで、形勢が逆転され、カイジュウらに人類が次第次第に追いつめられると、思いもかけず苦悩するパイロットたちの人間描写がずいぶんあったりして、おいおい親子関係なんてどうでもいいからカイジュウを出せ、主眼たる暴れまくるカイジュウはどうしたんだと期待するも、なにせやつらが登場するのは大洋なので、都市に到達する水際で防戦だとばかり戦いの舞台は主に海上・海中となり、ゆえに都市破壊の描写が極端に少なくなってしまうのだった。怪獣映画の醍醐味、都市がめちゃめちゃにされてしまう恐ろしさは、仕方ないので来年の「ゴジラ」に期待しましょう。
これも誉めるつもりがペンの矛先はついつい批判めいてしまう映画であることだなあ。

唯一手放しで誉めるとするならば、監督のロン”ヘルボーイ”・パールマンへの愛が感じられて、ヘルボーイ好きとしては、それはちょっとうれしかったところぐらいか。
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つくづくこの役者が好きなんだろうなと思う反面、イヤ待て待て、エンドタイトルの蛇足部分は、監督め、続編も視野に入れてやがるなと鼻白んだりなんかして。

というわけで、やっぱ誉めっぱなしてはおけない映画だった、というのが結論でした。


「パシフィック・リム」12月11日、DVD/Blu-ray発売。

本土アメリカでは大コケ。なぜか中国で大ヒット。どうやら巨額の資金も回収できたようで、続編製作もありそうな気配。
私は...もういいです、中庸評価でも。デル・トロ監督は、別のプロジェクトで頑張ってほしいんだがなあ。

by wtaiken | 2013-11-21 02:00

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