2013年 夏の映画鑑賞録   

「風立ちぬ」宮崎駿監督作

まあなにを血迷ったものか、よほど期待して公開初日に観てしまったのだった。
と、きっとこの映画の評価が高かったならこんな書き出しにはすまいな。ということですでに察せされると思うが、続けると...

初監督作品「未来少年コナン」と続く監督第二作目「ルパン三世/カリオストロの城」ですでにピークを向かえてしまっていたこの監督に、もはや多大な期待を寄せなくなって久しいし、それでも「風の谷のナウシカ」以降たどった下降線がとてもゆるやかだったうえ、何本に一本くらいはそれなりに突出した作品をものしてもいたので、「一応は観ておきますか」的な一定の距離感を保ちつつ、かつて熱烈ファンだった余生を心静かに送ってきたのだったが、2001年作「千と千尋の神隠し」が消えかかるろうそくの鮮やかなきらめきを残してからというもの作品の凋落ぶりはめざましく、そのうえ震災以降冒険活劇の必要性を監督本人自ら完全否定しているからには、愉しくも感動的だったかつての宮崎アニメを今に求めること自体所詮無理な話だし、だからもう観るつもりはまったくなかったのだが、公開前話題になった、BGMに荒井由美の「飛行機雲」がかかる以外セリフのほとんどない4分間の特別予告篇があまりにも感動的すぎたので、ついつい「もしかしたら傑作ができてしまったのかも」なんて思って初日の劇場に赴いた自分が今にして思えばうらめしい限りだ。

結論から言うと、「風立ちぬ」は実に中途半端な作品で、零戦設計者のプロジェクトX的な男のロマンを期待するとまったく肩すかしを喰らうだろうし、だったらこれまでのジブリや宮崎駿作品にはなかった薄幸の女性との悲恋に思いを馳せたところで、映画サイトユーザーレビューでコテンパンに叩かれるほどダメだとも思えなかった、むしろ朴訥としたキャラクターがそれなりに評価できる庵野秀明の声優起用も、さすがに演技力の必要とされる肝心のセリフ、ことにクライマックスのある一言ではその下手さ加減が際立ってしまい、思わず客席の椅子からずり落ち、感動どころか最後の最後で失笑をもらしてしまった観客は私ばかりではなかったはずだ。
感情のピークが台無しになったこの失敗は、庵野の演技にではなく、やはり起用した監督にあると思うし、おかげで予告篇であれほど感動した「飛行機雲」のテーマ曲さえも、本編ではまるで付け足し、蛇足でしかなく、しらじらとしたエンドロールに思えてしまったのは誠に残念だ。

とはいえさすがに刮目するシーンもいくつかあったし、これは「紅の豚」ですでに表現済みではあったけれど、大空を寡黙に飛行する零戦の葬列に「(飛びたっていったっきり)ひとつも帰ってこなかった」と主人公がつぶやく男のロマンチシズムを刺激するシーンには(←ここの庵野はいいです!)ジーンとしてしまったしで、決して一部昔のジブリ熱烈ファンの、最低作とヒステリックに酷評するほど不出来な作品でもないかわりに、結句はじめに書いたように、つまりは評価すらもいまひとつ焦点が定まらない中途半端な出来だったとしか言いようがない作品だったと思う。

「恥ずかしながら...わたし、自分の作品ではじめて泣きました。」
とは、初号試写後の宮崎駿からスタッフへの挨拶だ。
そりゃあね、懸命に生きざるを得なかった監督自身の父親が生き抜いた時代を思い入れたっぷりに描いたんだもの、感動もするだろうし涙も流すさ。うがった見方をすれば、この発言さえも宣伝として効果抜群だったということだ。
子供の観客を期待できないはずなのにこの夏一番の大ヒット、本当にジブリブランドはなにをしようとも当る、といったところか。個人的には大傑作だと思っている「山田くん」を日本の観客はあれほど拒否したというのに...。

ちなみに最近話題となった喫煙シーンの是非については、もちろん是です。良識のある人なら当たり前の見解だろうね。馬鹿げた言いがかりだと思ったし、改めて映画における殺人シーンの是非を問うまでもないのと同様だし。
病身の妻の横でたばこを吸うなんてもってのほか!なんてヒステリックに言う人がエスカレートすると、マッカーサーのパイプにモザイクを!なんて言いだし兼ねないから怖いよ。
とにかくこのところ映画と現実の区別もつけない人が多いから厄介だ。

それにしても宮崎駿は「となりのトトロ」という国民的大ヒット映画を生んでしまったおかげで、ウェルメイドな「名探偵ホームズ」や「パンダコパンダ」(演出とクレジットはされていないけれど)のような、ただただ愉しいばかりの漫画映画を地道に創る監督人生と決別しなければならなくなってしまったのは、結果論として残念だったと思う。
やっぱりトトロ前の、冒険活劇として完成型をみた「天空の城ラピュタ」には、いまの作品に欠落してしまったワクワク感がいっぱいだったものな、先日テレビ放映でちらっと観たけど。


さて次回はもうそろそろロードショー公開の終了してしまう「バシフィック・リム」レビューですたい。


で、おまけに最後にホットトイズ、キャットウーマンカスタマイズをチラッと。
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カスタマイズについてはそのうちゆるりと書きますが、この一枚だけで7つの改造ポイントのわかる方は、是非コメントを。

※うしろの文庫棚、ビビットなピンクの背表紙がずいぶんと目立っていますが、これは角川文庫版山田風太郎。2段下のくすんだ紫色背表紙は新潮の夏目漱石。昔の文庫は背表紙の色で出版社と作家が誰だかわかったものです。ま。どうでもいい話ですが。
左奥にはうっすらベインのRISEポスターも見える。このベインを含め3 RISEポスターは、かれこれ一年以上貼られっぱなしだ。これもどうでもいい話でした。

by wtaiken | 2013-08-26 23:47

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