その時感情が揺れ動いた 号泣テレビ その1   

キーひとつで容易に知りたい情報を手にすることのできるこの時代に抗って、あえて自分の記憶だけを頼りに、昔観た、主にテレビドラマを中心にして、ただただ滂沱の涙に暮れるよりなかったストーリーの概略を、感慨も新たに、このプログで再現しようという試みの、その第一回目である、唐突だけど。

なんでまたそんなことを思いついたのかというと、ついに今晩、一年を通して観る大河ドラマといえば「黄金の日日」以来なんとまあ32年ぶりだった「龍馬伝」が最終回を迎えるわけで、龍馬暗殺の報に、語り部たる岩崎弥太郎が、「大っ嫌いじゃき」と憎まれ口を叩き回想しながらも、秘して裏腹では無二の親友として感じていた愛情がついに慟哭をもって発露されるであろう場面で感涙必至、すでに二週間ほど前から私は十二分に泣く準備万端状態なのであり、今だって泣きそうな気持ちを抑えつつも思い返せば、テレビドラマで涙するなどずいぶん久しくなかったことなので、だったらここは”号泣記念”と銘を打ち、懐かしの泣けたドラマのおさらいでもしておこうというかという気になったまでのことなのだ。
ハイビジョン放送で4時からその最終回を観てしまう、ということも考えなくはなかったが、やっぱり大河といえば日曜の8時。我慢して、地上波放送に備えることにしたが、それもあと数時間後に迫っている。さあ、泣くぞ。

さて「その時感情が揺れ動いた」、その第一回。だったら大河つながりの32年前のドラマ「黄金の日日」から川谷拓三演じる善住坊処刑の場、なのかというとさにあらず、それはまた今度の話。
なにせ”号泣”したドラマで真っ先に思いついたのがこれだったのだから、まずはこのドラマを差し置いて、なにをかいわんや。
ズバリ、「太陽にほえろ!」テキサス殉職の回だ。

ここにあえて断りを入れておくと、すべてはあくまで記憶だけを頼りにして思い出し思い出し書くストーリー概略なのであって、過分に美化されているところもあるかもしれないし、ずいぶんと曖昧だろうし、まったく抜け落ちているところもあるし齟齬はあるし脚色もある。なので「それ違うだろ」といった指摘は一切受けつけない。あしからず。

で、いきなり決まりごとを破って恐縮だが、こればっかりは記憶しているわけもないので調べたところによると、テキサス殉職の回サブタイトルは第216話「テキサスは死なず!」、1976年9月3日の、もちろん金曜は夜8時に日テレでオンエアされている。なんと当時13歳なのだった、自分。
以下、私の記憶による「太陽にほえろ!」第216話はこうだ!

その日、七曲署捜査第一課は、刑事たちがみんな出払ってガランとしている。カメラが移動すると、ぽつねんとボスが一人課に残り、例のごとく窓辺に佇んでは、眉をしかめ渋すぎるいつもの顔つきでなにかを深く考えこんでいる。
と、これまた渋い顔つきで課に戻ってきた山さんが、そんなボスに声をかけるのだった。
「ボス、なにか心配ごとでも?」
「ああ、山さん…察しのとおり心配ごとだ」
「テキサス、ですね、ボス」
「ああ、山さん…察しのとおりテキサスのことだ」
「テキサスもここに来て2年。刑事としての自信も実力もついてきた。無茶をしなければいいんですが。って感じっすか、ボス」
「ああ、山さん、テキサスもここに来て2年刑事としての自信も実力もついてきた無茶をしなければいいんですがだ」

ここでドラマの背景をちょっと説明すると、「太陽にほえろ!」では、それまで若手刑事すなわちマカロニ、ジーパンともども一年でレギュラーを降板、つまり殉職させている。これはマカロニ役のショーケンが、番組の姿勢、8時台というオンエア時間帯の配慮から一切の性犯罪やセックスの問題を取り扱わないことに不満を持ち降板を申し出、”殉職”というカタチで花道を飾ったことをきっかけに、以降若手刑事の殉職シーンがこのドラマの名物となったいきさつがある。
当然テキサス役の勝野洋も1年間のお勤めで殉職する予定だったが、視聴者からの延命嘆願書が大挙寄せられ、さらに1年間の出番延長となった、この第216話では、テキサス七曲署配属から2年が経ち、そろそろ3年目を迎えようという時期。
いやはやそれにしてもストーリーやタレントのスケジュールまで動かしてしまうのだから、”恐るべし嘆願書”だ。
ちなみに「黄金の日日」でも、善住坊と、人気を二分した根津甚八演じた石川五右衛門にも嘆願書が多数寄せられたというのは割と知られたエピソードであるが、歴史的事実とされていることまでは曲げられなかった、”そこまでは力の及ばなかった嘆願書”だ。

さて、216話に話を戻そう。

その日テキサスは、なんかの重大事件を追っているのだったが(こういうところが記憶のみのストーリー紹介では致し方のないところなのだ)、凶悪犯人逮捕に際し、拳銃を発砲、重症を負わせてしまう。(確か「太陽にほえろ!」では、それまであまり派手な銃撃戦をあまりしていなかったはずで、正当防衛にしろ刑事が拳銃を発砲することは、かなり重要なエピソードとして描いている。数年後につくられる「西武警察」などのドンパチ系アクション刑事ドラマとはあきらかに本質の違いがここから見て取れる)
しかしその発砲は、自らの命の危険もあって致し方のない発砲であって、なによりひとまず逮捕にこぎ着けたことになんら悪びれる様子のないテキサスであったが、そんなテキサスに対し、なんとこれまで感情をあらわにすることのなかった山さんが突如ぶち切れるのだった。
「バカやろうこのやろう、テキサス!」
もう殴るわ殴るわ、テキサスはぼこぼこだ。
「痛いじゃないか山さん、なんだよもう」
「バカやろうこのやろう、この拳で言ってもわからないのか!」
「ああわかんないっすね、なんでまた犯人逮捕してぼっこぼこにされなきゃならないんすかあ。まいったなあもう」
「いいかテキサス、われわれ刑事の本分とはなんだ、バカやろうこのやろうテキサス言ってみろ」
「ええーっ、いまさら? もう刑事2年やってるんすよ2年。んなこたわかりきってるじゃないすかあ」

なんだか私の記憶で再現すると、テキサスの人物像がとんでもなく生意気な刑事に思われかねない描写がつづいてしまうが、実のところスポーツ刈りもさわやかな正義感も人情味も溢れる、とにかくいい刑事の典型的な人物として描かれているので、その辺を念頭に、そして余計な、私が”乗っけている”描写には惑わされないで欲しいものだ。そして山さんもしかりで、山さんはテキサスをぼこぼこにしていないかもしれないぞ。いやしていない。きっと。

さて、激高した山さんはつづけるのだ。
「いいかテキサス。われわれは刑の執行人ではないぞ。刑事の本分は、あくまで犯人逮捕なんだ。逮捕するまでがわれわれ刑事の仕事なんだ。逮捕するまでが刑事の仕事。うちに帰るまでが遠足だ。それは如何なる時であってもだ。わかったかバカやろうこのやろうテキサス」
「だってさー、危なかったんすよ、撃たれそうになったんだもん。そんなときはどうすりゃいいんすかぁ、どうすりゃあ…わー!!(泣きじゃくる)」
「足を撃つ。あるいは腕を撃つ。いいかテキサス。なにがあろうとも”犯人確保”の本分を忘れるな」

まったくこのセリフが、のちのち物語の肝になってくるたぁー、13歳のテレビにかじりつく自分にゃぁわかるめえよ。

んでもって、あれこれ事件を追う描写がしばらくつづくのだが、そこは省略。憶えてないし。おそらく冒頭でテキサスの追っていた重大事件に関連しているはずだ。

そしてシーンは、どこだか港湾の倉庫。確か重大事件は麻薬密輸に関わっていて、その取引現場をテキサスは単身つきとめる。ウラ取引をはじめる密輸犯たちは都合8人。とても一人での全員確保はどだい無理な話だ。すぐさま応援要請をするテキサス。当然当時はケータイなどなかったから、公衆ボックスから一課に電話する。出たのは、例のゴリだ。そして例のゴリはこうテキサスに告げる。
「いいか、テキサス、無茶をするな。応援には今からすぐに駆けつける。いいか、もう一回言うぞ。テキサス、無茶をするな…」
「ああ、はいはい。わっかりましたぁー」
「おいおい、ふざけている場合じゃないぞテキサス。断じて一人で踏み込もうなんてするなよ!」

しかしテキサスの目の前、今にもウラ取引は終わろうとし、麻薬密輸団の面子は燦々轟々その場を去ろうとしている。
こいつはいかん! 生来の正義感から、とっさに単身密輸犯たちの前に飛び出してしまうテキサス。
「待てぇ! 待たんかこらぁ、おんどりゃあ!」

当然鳴るよね、疾走感のあるトランペットのあの曲が。確かタイトルは”ジーパン刑事のテーマ”じゃなかったけかな。
飛び出すテキサスには、容赦なく雨あられのように銃弾が浴びせられる。1人対多勢の絶対不利な状況下、それでもテキサスは、疾走感のあるトランペットのあの曲に乗せて、ひとり、そしてまたひとりと確実に犯人を拳銃にてしとめていく。
ひとり。残りあと7人。ふたり、あと6人。3人。あと5人…。肩や二の腕や足に銃弾を浴び、もはや満身創痍となりながらも着実に犯人をしとめていくテキサス。頑張れー。

が、しかし。残りあとひとりにまで追いつめるテキサスだったが、そいつの放つショットガンの銃弾をもろ腹部にくらってしまうのだ! 前のめりで倒れるテキサス。絶体絶命。うそ、うそだろ、これで死んじゃうのかよテキサスぅーと誰もが思ったその瞬間、なんとテキサスは犯人を捕まえたいという正義の一心、その気合いで立ち上がるのだ。
「んんんん…ぐおぅー!」

恐れをなした密輸犯が、狂ったように銃を乱射。その銃弾をつぎつぎに浴びてしまうテキサス。しかし。テキサスは、まるで弁慶の仁王立ちのように倒れない。もうこの辺ですでに涙ボロボロ。
この鬼気迫る表情のテキサスに、犯人も後ずさりし、ショットガンを投げ捨てて逃げようとする。何発も銃弾を喰らいながらも、その犯人めがけ、ゆっくりと拳銃を構えるテキサス。そして撃つ!

その時遅く、駆けつけるゴリと長さん。激しい銃撃戦が行われた様子の倉庫に、二人はたじろぎ、テキサスを見る。最後のひとりをしとめたままのポーズでゆっくりと二人の方へ向くテキサス。
「テキサスー!」
ここからはもちろんスローモーションだ。二人にゆっくりとテキサスが微笑みかける。その表情を見て、安心の表情を浮かべるゴリと長さん。だが、その二人の表情を見届けた途端、すべての糸が切れてしまったかのようにテキサスは倒れてしまうのだった。
「テキサスー!!」
駆け寄るゴリの腕の中で、もはやテキサスは虫の息だ。
「おい、テキサス、しっかりしろ、死ぬんじゃないぞ!」
「ゴリさん…犯人は、無事捕まえましたよ…」
ゴリ、長さんは思わず倉庫内をグルリと見渡す...。

そしてみなさん、いよいよ今回のその時がやってまいります。滂沱の涙、そのときです。
うめくもの、転げ回るもの、犯人を誰一人して銃殺しているものはない。そう、テキサスは山さんの教えを確実に実践して、密輸犯の足だけを撃っていたのだった。

確かこのあと、一課の刑事ひとりひとりに、テキサスからの呼びかけがエコーのように3回づつあったはずだ。
「山さん、山さん、山さーん!」みたいな。そしてそれぞれの悲しみのどアップ。もちろん最後は、ボスの涙のアップで、その回は終わるのだった。

というのが、私の憶えているテキサス殉職の回のあらすじだ。
当然まだ中学生の自分は、自宅で、家族とともにこのドラマを観ていたはずだが、臆面なく号泣していたというのだから不思議だ。
いや、そういえば、もしかしたら父は仕事からまだ帰らず、高校生になっていた姉は「あだ名で呼び合うバカな刑事ドラマなど観ていられるか」といったかどうかは憶えていないが、そろそろ反抗期を迎えていたろうから自室にこもってい、つまり母と二人でこの回を鑑賞していたのかもしれない。私に負けず劣らず母も涙もろいので、二人してテキサスの死に嗚咽をもらしていたのだろうか。

さて。
ちなみにファンサイトに掲載されていたあらすじを拝借して、ここに正解として以下掲載させていただこうと思う、ついでにそのファンサイト管理人の感想なども併せて。もちろん私の記憶によるあらすじをすべてを書き終えてから検索したものだ。カッコ書きの黒文字は私による。

「簡単なあらすじ」
突然街中でチンピラが銃を乱射した。罪のない一般の通行人3人が三上刑事
(これがテキサス)の居る前で無差別に殺され犯人の今井は麻雀荘に立て篭もった。(ああ、そうなんだ)
三上刑事は、飛び込もうとするが、山村刑事(これは山さんに決まってるだろ)は、犯人を殺してしまえば、凶器である拳銃の出所がわからなくなると制止し、山村刑事自信が説得し、今井は逮捕された。
(ぜんぜん記憶と違うようだが、ポイントは外してなくって、つまりここで山さんの叱咤と、足を撃ち、戦闘心を奪え的な発言があるはずだ)
今井の供述によると中島という者から拳銃をもらったという。山村刑事と三上刑事が、その中島を尋ねると中島は何者かにやられ意識不明の重体であった。中島は病院へ運ばれ入院したが、その中島を狙い侵入した者に田口刑事(通称ボン)が撃たれ負傷した。その後、中島の友人と名乗る村木が見舞いに訪れ、村木の目つきにあやしいと感じ取った三上刑事は、村木を尾行する。村木の経営する村木製作所の地下が拳銃の捏造工場だった。(麻薬密輸じゃなかった。拳銃工場か。←しかし”捏造工場”はおかしいぞ、このサイトの人!)
三上刑事は、拳銃の取引があると藤堂係長に告げ藤堂係長はみんなが行くまで無理するなと言うが、取引の現場を前にして、無差別に殺された光景と正義感が頭の中に浮かび、取引現場に飛び出し引き金を引いた。
(なるほどそういうストーリーか、きっちり冒頭の事件と絡んで殉職するんだなテキサス。そりゃそうだけど)

「個人的感想」
三上刑事の殉職の話です。タイトルは死なずとありますが、次回予告を見ると結果はわかってしまいます。さて、ストーリーのほうですが、よくできています。テキサスらしいキャラクターの最期となっています。そこに至るまでの話もなかなかよくできています。ここまでには、既に二人の刑事が殉職していますが(早見刑事、柴田刑事)、刑事達に見取られて殉職したのは、初めてです(早見刑事も見取られていますが、その時は死体でした)。山村刑事の教えを守り抜いて逝ったところは、涙でした。


「今回の印象セリフ」
三上刑事「お世話に・・・なりました・・・。」

(うわぁ、こりゃ憶えてなかったけど、やっぱ泣けるなあ、テキサスはよぉ)

それでは今夜もご覧頂きありがとうございました。

by wtaiken | 2010-11-28 17:56 | 号泣テレビ

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