さよならだけが人生だ
2020年 05月 25日
高校の時のツレに、他校にまで知れ渡るギタリストがいて、秋の文化祭のバンド大会に出場するそいつが率いるバンドのボーカルに誘われてしまった。
まだカラオケボックスなんてものがない時代だから、音楽の時間での歌声なのか、地声が気に入られたのか、単なる親友としてのノリだったのかいざ知らず、ギターの腕は校内にそいつの右に出るものはいない、大会優勝の筆頭バンドだったから、下手な歌声でその邪魔をしたくない、音楽は好きでもその才能はないと確信していた私はずいぶんと固辞したんだと思うが、自信満々のギタリストは「俺のギターがあれば優勝は間違いないから大丈夫だ」とゴリ押してくるし、生来の目立とう根性が余計なところでヒョッコリ顔を出してしまった。
そこまでいうなら、じゃあやってみるか。
そのくせ人一倍緊張しいで、人前に立とうものなら、膝は震える手は震える心臓がバクバク暴れる呼吸は乱れるといった具合で、そんな極端なあがり性分の反動がやがて大学以降アングラ演劇の舞台上で爆発することになるんだけどそれはまた別の話、学校帰りの有料スタジオで連日連夜のバンド練習は、女子メンバーあってのいかにも青春の1コマという甘酸っぱい思い出でもあるんだけど、文化祭当日の、しかも出場する少し前の袖口で、対抗バンドメンバーで逆転優勝をつけ狙う友人からの
「リハで見てたけど、アイケン (中高生時の私のあだ名) さ、あの歌はキーが高いから、無理して歌うより断然裏声にした方がいいと思うよ。」
とのアドバイスを真に受けてしまったのだった。
果たしてそれが額面通り良かれと思ってのアドバイスだったのか、優勝本命からおとしめるための狡猾なアドバイスだったのかは今となっては確かめようもないことだが、そこまでの夜ごとの練習は何だったんだという突然の裏声での歌い出しに会場は騒然、バンドメンバーらもよもやの暴挙にと胸を衝かれたことだろう、その動揺はこのバンド一番の見せどころたるレッド・ツェッペリン「天国の階段」のギターソロを歯で弾いて見せる親友のパフォーマンスにも影を落とし、私の裏声歌唱同様に、全校生徒および全教員、保護者らからの失笑を思いがけずかってしまい、結果優勝などほど遠いこととなって惨敗に終わった、人生にはいくつもあるだろう汚点の中でも、いまだ思い出すだに冷や汗の滴る、そんな私がメインボーカルを務めた楽曲、それがオフコースの「さよなら」だったのだ。
そう、今日のテーマは「さよなら」だ。
望むと望まざるとにかかわらず、はじめたこと、はじまってしまったもの、神羅万象すべてに終わりはある。
太陽は燃え尽き、この巨大なグローブもいつか消えて跡形もなくなるだろう。と、フリッパーズギターはそう歌ったものだ。しゃべる、笑う、恋をするぼくたちはさよならする。とも。
今も膨張しづけるこの宇宙すら、遠い遠い未来のその果てには、粉々に砕け散って瞬時に収縮をし、豆粒ほどの大きさになったかつての宇宙が、どこか知らない空間にポトンと落ちて、そしてすべてが終わるのかもしれない。
2004年の12月24日、パーマネントに続けるつもりで立ち上げたワールドツアーという劇団のホームページの読物としてはじまった当ブログも、母体たる劇団がなくなった後、途切れ途切れになりがちながらもこうして16年、よくまあ続けてこれたなあと改めて振り返ってみると我ながらなかなか感心だ。
あれから早16歳歳をとって、今や小2男子の父親になっていようとは、仕事で台本を書くかたらわブログの文章をちまちま推敲していた当時に私は、そんな未来など思いもしなかったろう。
ある意味生活のほんの一部とすでになってしまっているこのブログではあったが、はじまったものに別れはつきものだ。
だから、というのも変な話だが、
今日ここに、「旅ビト・コルレオーネ」を、閉じようと思う。
さよなら、さよなら、さよなら、もうすぐ外は白い冬、なのだ。
それではみなさん、さよなら、さよなら、さよなら〜、だ。
さよならは別れの言葉じゃなくて、再び逢うまでの遠い約束、だ。
事情は話すまい。面倒だから。
そしてこれまでずいぶんと長く放置していても、都度都度覗いてくれていた皆様には感謝の言葉しかない。
長きにわたり、本当にありがとうございました。
また、どこかで、心機一転ブログを始めた時は、どうかよろしく。
できればこれを読む傍らには、キューブリックの「博士の異常な愛情」のエンディングに流された「We'll Meet Again」か、はたまたジャパニーズAORの代表曲、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」がかかっていて欲しい。あわよくば。
では、また、逢う日まで。お達者でー。
…と、いうことで。
心機一転、もうはじめてます。
実はインターネットの回線問題で、(実は今しばしの再開をし、そして) 1月後にはこのブログにアクセスができなくなってしまう物理的な事情により、「旅ビト・コルレオーネ」から ”また次なる旅にでる” ブログ、すなわち老いてますます浮浪雲のようにのらりくらりと旅から旅の人生様相を呈する「股旅」とを絡めまして、心新たに「股旅ビト・コルレオーネ」と題し、こちらにてブログ開設しております!
すでにご挨拶がわりに2編記事をご用意してございます。
これからは「股旅」の方にて記事は更新して参りますので、どうかひとつ、またのご贔屓とご愛顧のほど、是非ともよろしくお願いをいたします。
実は新規開設してみたのはいいけど、誰にも知らせずに放置していて、一体いつ訪問者が来るのかと心待ちにしてたら、誰一人のアクセスもないでやんの。チェッ。
# by wtaiken | 2020-05-25 23:26