シリーズ・寺菓子を食すepisode2「お菓子だったらただ闇雲に甘ければいいのか篇」   

オーブニングナレーション
『かつてお寺には、法要などで振る舞われるお寺独特の地味な菓子があった。寺菓子。私はそれをそう呼びたい。
それらほとんどの名も知らぬ菓子を、40を過ぎた私の口がどう受け止めるのか。
昔、大人たちが好んだお菓子を食べることで、大人の味覚を獲得したい私の食の探訪。
シリーズで紹介する、現存する「寺菓子」の今。』


パーティ仕様のキャンディーに、こんなものがあった。
それはどこにでも売っている類いの、何種類かのフルーツキャンディー詰め合わせの一袋なのだが、その他の競合商品と一線を画しているのが、小包装されたひとつひとつに、あるべきフルーツのイラストも写真も、一切何味かの情報が開示されていない点だ。
さらに「なかなかのアイディアだ」と思ったのは、キャンディーの色と味が一致しないという工夫がなされていることで、黄緑色のキャンディーがオレンジ味だったり、紫色のキャンディーがレモン味だったりと、既成概念としてのフルーツの色と味の組み合わせをシャッフルしているのだ。
何味かの正解は、小包装の裏側の折り返し部分にひっそり書かれている。
ようするにみんなでワイワイガヤガヤ当てっこをしてほしいというコンセプトのキャンディーで、それがたまたま編集室にあったから当然みんなでやってみようということになった。

これが驚いたことに、ぜんぜん当てられない者が続出なのだ。
「お前らはバカか」
味オンチにもほどあるというもので、とんちんかんな回答をするものらに次々冷笑を浴びせているうち私の番がきた。どんな些事だろうと負けることが大の嫌いな私だから、真剣そのものだ。五感をキャンディーひとつに研ぎすました。ま、視、聴、触覚の3つはいらなかったのだが。
これが結構手こずるのだ。そして真剣に悩みながら、人はとって色はかなり大切な判断材料であることがよぉくわかったのだった。オレンジ色はオレンジ味。赤はイチゴ。ピンクは桃。紫はグレープ、といったように。この常識、思い込みによって、人の感覚はゆるくなってしまっているのだ。
「常識など覆せ!」
キャンディーひとつで、とんでもない命題を与えられたものだが、微妙な味に戸惑いつつも、キャンディーが舌の上でほぼ無くなりかけ、編集室のみんなも忘れた頃になってようやく「オレンジ!」と叫んで「え、なにが」と言われてしまった。

こうして色と味の情報が入り乱れると脳が混乱を来すものだ。

ところがだ、オレンジ色したオレンジ味のはずなのに、赤い色したイチゴ味のはずなのに、どれもこれも味が似たり寄ったりの、ただ甘かったとだけ記憶されている寺菓子があった。

なんだか展開を読まれたようでしゃくだが、前回コメントでmiura2go!さんご指摘の通り、ズバリ!このフルーツゼリーは寺菓子である。
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正式名称は、「ミックスゼリー」。
どうしたって派手にはなれない宿命にあり、せんべい系の茶だの、らくがん系の白だの、海苔やごまの黒といった地味な色合いに混じって、唯一色彩のある寺菓子であったが、甘いものが大好きな子供とて2、3個も食べれば嫌気がさして「ただただ甘いだけの菓子などいるか!」とばかりに盆に残されがちだったのがこれだ。

パイン、オレンジ、メロン、ぶどう、いちごの全部で5種類。
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袋の表書きに「いちごゼリーのみいちご果汁を使用し、その他のゼリーは無果汁です」とある。
残りは香料による疑似フルーツ味というわけで、一袋に全12個入り。うち、いちごは1個のみ。オレンジが4個、メロンが3個、パイン、ぶどうがそれぞれ2個づつというラインナップ。もちろん袋によってアソートはまちまちなんだろうが、どうも果汁入りのいちごは1個っきりという、せこい規律はあるように思われる。
ちなみにぶどう味が紫ではなく、果肉色にしているところに余計なこだわりが垣間見える。
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さて実食に移ろうと思うが、せっかくだから、12個すべてをもみくちゃにし、そこから目をつぶったままひとつだけ取り上げそのまま口に放り込み、果たして何味なのかを当ててみようかと思う。
ビニールをはぐと、おお、そうだそうだった、この感触はゼリーを包むオブラート! こ、これは懐かしいぞ。
で、目をつぶったまま、いただいてみた。
「メロン。」
即答だった。子供の頃の「どれもこれも甘いだけで似た味」という記憶に誤りはあったものの、その甘さは記憶のままだった。まさに人工的に作られた、なんともいえない甘さだ。

この甘さには、すっかり別の味を味わう気も萎えてしまった。
実食時間、わずかに10秒ほどで終了だ。

ズバリ言おう。「ミックスゼリー」。いらない。いりません。1個で十分だ。寝たフリしてる間に出て行ってもらったうえで、ワンマンショーで朝までふざけようかと思うのだ。本気で一生もう買わないと思った、こればっかりは。

それにしても、みそ半月は、口に含んだ時の懐かしさや「いけるかも!」という瞬間があったものだが、ミックスゼリーに関しては、それが微塵もなかったのがちょっと残念だ。
とはいえせっかくだし、唯一の果汁入り、いちごも食べてみた。
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ただただ甘かった。

さてだ、残りの10個をどうしようか。


大人の味覚への道のり。それは果てしなく遠い。
なんだか正直なところ、2回目にして、すでに苦行みたいなことになってきたぞ「寺菓子を食す」!


                   はじめたからには、まだつづけるつもり…

by wtaiken | 2008-08-28 02:39 | シリーズ・寺菓子を食す

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