「ダークナイト ライジング」総括 その3   

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TDKR総括!


3 ハービー・デントデーセレモニー
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夜のゴッサム空撮に、ガルシア市長のセリフが重なる。物語が「ダークナイト」から8年後と設定されていること、デントの死を悼み命日を"デントデー"という祝日にしていること、さらに正義と闘ったデントを追悼し "デント法" という法律が施行され、8年間街の平和が保たれていたことなどが、ガルシア市長のスピーチで一気に提示される。

しかしこの「ダークナイト ライジング」ストーリーの根幹 "8年後" という設定は、間が空き過ぎではないだろうか。
たとえば8年も街に平和がもたらされたのであるならば、それこそ "嘘も方便" というやつだと思ったし、もちろん個人差があることとはいえブルースの負った心とカラダの痛手を引きずるには、その時間があまりにも長過ぎるように思ったのだ。デント英雄の嘘にほころびが生じ、一度姿を消した闇のヒーローが復活するには、せいぜい3.4年後の話がちょうどいいところなのではないか、と。
ところが物語を "8年後" にしたノーラン監督の意図は、実は明解なのである。

映画は時代を映し出す鏡である、などとよく言われる。第一作目「バットマン ビギンズ」が、製作・公開された2005年の物語であるとするならば、3年後に公開された第二作「ダークナイト」は実年2008年に対し、物語は「ビギンズ」の半年後、つまり2005、6年あたりの過去のストーリーということになってい、今作では、のちのちストーリーに絡んでくる雇用率の低下、失業者数増加に伴う格差社会やオンライン詐欺といった今日性を盛り込むためにはどうしても設定を現時点に整えたかった、ということなんだろうと思う。いかにも律儀そうなノーラン監督の考えそうなことである。
なんてそんなことを自分にいい聞かせながら、ちょっと長いブランクに思う "8年後" という設定を受け入れたのだった。

ちなみにー
特に、映画ではなんの説明もない「デント法」。カタログによると、デント法とはすなわち「犯罪者は、投獄されるか、街から追放されるかの二者択一」を余儀なくされるのだそうで、なるほど後半ジョナサン・クレインの「デス or エグザイル!」はデント法を意地悪く引用したものであることがわかる。
それにしても「追放」って...。自分のところさえよければ他はどうでもいいというとんでもない法律。"二者択一"ってところもハービー・デントをしっかりと彷彿とさせる。なんにせよ、少しも説明がなかったのは、ちょっともったいなかったようにも思う。


このゴッサムシティ空撮にはじまるシークエンスにかかるのは、サウンドトラック盤M2の「ON THIN ICE」。前々章で指摘の通り、ゴッサムの平和が薄氷の上にあるというテーマ曲である。
しかしスピーチがガルシア市長からゴードン本部長へ移り、「ハービー・デントの真実...」と言い淀むあたりから、スコアも緊張感が漂ってくる。これはサントラ盤にはない劇伴であり、このあとも聴き慣れないスコアがいくつか使用されている。そのどれもが印象的なスコアであり、したがって「ダークナイト」の2枚組のような、完全版サントラのリリースを強く希望するものである。
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輸入盤でしか手に入らない「ダークナイト」サントラ2枚組。TDKR公開のおかげか、いまでもAmozon.co.jpなどで購入可能

ところでゴードンのスピーチ中に、2度挿入されるハービー・デントの短いインサート。
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「ダークナイト」本編映像よりずいぶん暗部を持ち上げて (明るくして) 、あるいは焼け爛れた半面のVFXをやり直しして、狂気のトゥー・フェイスっぷりを明瞭にしている。
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これは「ダークナイト」本編中のキャプチャー。TDKRに差し挟まれたハービーの顔は、焼けた左半面の明度が上がり、判然となっていた

こういったカタチで一瞬とはいえ改めて「ダークナイト」を回想すると、その狂乱ぶりがハービーの2面に伺えて、久しぶりに効果絶大なインサート映像だと思った。

このデント追悼セレモニー中に、今作の新たな主要人物が次々紹介される。
脇としては結構な活躍ぶりだったマシュー・モディーン演じるフォーリー副本部長。
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彼女についての感想は、いずれ語る時に語ろうと思うミランダ・テイト。
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これは、のちの上流社会マスクトパーティ中のものであるが

そして、アン・ハサウェイ'sセリーナ・カイルが早々に登場する。
おどおどしたメイドから、泥棒猫の正体を指摘された途端に「oops!」と本来のファム・ファタルな表情に戻り、ヒールの踵でブルースの杖をつまはじくと窓の桟に飛び乗ってはクルリと身を返し、「おやすみなさい」とバク宙かましてとっとと退散する。この変わり身を嫌みなく、どころかキュートに軽々と演じてみせ、さらにすべての動作がまた計算された美しさときた。お見事でした。

「ダークナイト」のジョーカーを演じるヒース・レジャーも、銀行銃撃のプロローグからその一挙手一投足から目が離せなくなったものだが、アン・ハサウェイもまたそれに匹敵する魅力的な人物造詣。ブルースが放つ矢が突如眼前の的に突き刺さり、美女が惜しげもなく顔を崩して悲鳴をあげるところは、セリーナ・カイルの、実はか弱い乙女っぷりを偲ばせるシーンでもある。このあとアン・ハサウェイは、素のセリーナ・カイルを随所に、短い表情の変遷だけでそれを表現してみせる。どこに素のセリーナがあるかはその都度指摘するが、ここでの大口開けて絶叫する、そこまでするかねのこのパターンは、アン・ハサウェイの得意技。ロドリゴ・ガルシア監督の「パッセンジャーズ」でもほぼ同様の演技を観ることができる。

特にここでの見所は、なんといってもアンのバク宙。
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できれば映画で初見といきたかったのにと思わずにはいられなかった。
それにしてもこのシーンに限らず、今作ではトレイラーで観せすぎな点が多々あったように思う。
映画史に残るバットポッドの登場が壊れたタンブラーから飛び出すだなんて事前には微塵も感じさせなかったし、ハービーの半面も公開されるまであんなにグロテスクな造形だとは思いもしなかったといった具合に、映画本編を観てのサプライズが多かった「ダークナイト」に比べると、格段に観せすぎネタバレしすぎだった今作。
先手の「アベンジャーズ」が「ダークナイト」興行を抜くというビッグヒットを飛ばしたことも少なからず影響しているんだろう、是が非でも当てたいワーナーブラザーズの暴走を、ノーラン監督も致し方なく承知した、という構図だろうか。
映画公開前までになんでも観たいファン心理の枯渇を癒すか、カラッカラにされつつも公開までは限られた情報に甘んじるか...これまでブログで嬉々として紹介した通り、出される情報出される情報すべてウェルカムでしたが、やっぱり映画を観ながら少しばかり後悔したのも確か。
とはいえ、とどめられる程度の欲求など欲求とは言わないのだ。


つづくゴッサム警察署屋上にて、ゴードンと、シリーズ初登場となるジョン・ブレイクとの邂逅により、ここに「ダークナイト ライジング」メインキャラクターが出揃うことになる。
ここでも先のシーン、ゴードンのスピーチ時に流れたサントラにない不穏なスコアがかかる中、ハービーの死とバットマン失踪の真実をゴードンに求めるジョン・ブレイク。
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以降、こんなにも活躍するかというほどの正義漢っぷりを発揮して、たとえば今回の「ダークナイト トリロジー」のすべてを "ビギンズ" で括るとするならば、もちろん第1作目はタイトル通りの "バットマン ビギンズ"。そして「ダークナイト」は、市井のチンピラでしかなかった男がバットマン登場と歩調を合わせるように、ゴッサム裏社会を牛耳るにまで一気に登り詰める "ジョーカー ビギンズ"。そして今作は、その揺るぎない正義心に、ブルースからゴッサムを守るバトンを渡される "ジョン・ブレイク ビギンズ" 。ま、もうネタバレを気にせず言ってしまえば、つまり "ロビン ビギンズ" だったのが、「ダークナイト ライジング」。
本名ロビン・ジョン・ブレイク。彼こそがロビンだったことがわかる衝撃については、もちろんそれがわかったところでいずれ詳しく。

ここでは8年間というときの流れを感じさせてくれる、過去の遺物のような、錆びついたままの毀れたバットシグナルが印象的だ。

さて、つづきは次章にて。
それにしても2時間44分を逐一振り返るのって...わかっちゃいたけど先は長げえなあ、おい。

by wtaiken | 2012-10-10 00:34 | 蝙蝠男の孤高の戦いは続くのか | Comments(0)

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