漫画のようなあいつ   

ヒトは時に自らの話術を駆使し、あるいは文章の表現力を持ってしても、どうにも伝えきれない特異な出来事に遭遇してしまうものだ。
しかしそんなときほどヒトは、その出来事をどうしても他者に伝えたくて伝えたくて仕方がなくなるのだ。
伝えたいというのに伝えられない、ええい、どうしてくれよう。

ひざまづき、頭を抱え、もどかしさに苦悶するヒトに向い、冷静沈着な第三者が突如やってきたかと思うと、こんなことを言い出すのだ。
「絵を描き、その絵で出来事を伝えたらいい」と。

ああなるほどね、そういやそうであった。

そんなわけで、最近「ダークナイト ライジング」がらみのニュースを頼りに当ブログをチェックしてくれている方々におかれましてはいささかの困惑を覚えるかもしれないが、本来このブログは突然4コマ漫画を描いてみたり、似顔絵塾を開いてみたりと、思いつくまま気まぐれになんでも手をつけてしまう優柔不断な、首尾一貫性のカケラもない天の邪鬼なブログなのであって、
「えーっ、ダークナイトの記事じゃなきゃ用はないなー」
などと一部 ( であってほしいが ) 無視される向きを承知で唐突に絵日記がこうしてはじまるのであった。

そしてこの企画が今後も続くかどうかは、絵が描きたくなるほど変わった出来事に出くわすか否かにかかっているので、そんな先々のことは神のみぞ知る、のそんな一応カウントはじめの第一回目である。


「某月某日 晴」

その日私は家人とともに山手線S駅の駅前にある回転寿司屋へ行った。そこは近頃私たち夫婦の特にお気に入りの回転寿司屋だ。
私たちが通された席は、目線の高さに寿司ネタの棚らしき視界を遮蔽するものが一切ないため、向かい合わせのカウンター席が丸見えなところだ。ただそれぞれがそれぞれにぼんやりと視線を泳がせ、お互い特に干渉はしませんよという不文律を遵守してはいる。とはいえついつい見るともなく見てしまうのは致し方ないことで、凝視こそしないもののざっと向かいのカウンター席に座す客を流し見していた私の目は、とある一人にハタッと止まり、そして釘付けになってしまったのだった。

いる、いるのだ。よもやの、つのだじろうが!
いやいや、つのだじろう本人がいるのではない。ではなにがいるのかというと、つのだじろうが描く漫画のキャラクターそのままの人がいるのだから、もうビックリしてすんでのところで奇声を発してしまうところだった。

漫画のキャラクターとリアルな人物との関係性を果たしてこう表現していいものか甚だ疑問だが、" 生き写し "とはまさにこのことだ。紙面から躍り出て、ご本人さん登場だ。「百太郎」か「恐怖新聞」か、きっと彼女は職場のカゲで同僚からそう呼ばれているに違いない。
…。そうなのだ、つのだじろうのキャラクターに似ているのは、なんともうら若き女性だったのだ。
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※ この画には若干の誇張がございます。彼女のセリフは作者の想像によります。


こういった前例がこれまでに決してなかったわけではない。
ご承知のように私たちはこれまで「サラリーマン山田」=「井上ひさし」という誠に希有な、そして決定的一例を有してい、

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そしてなぜだか暗黙のうちに「男キャラは男性、女キャラは女性」という勝手な思い込みがあったわけだが、彼女はその性別の垣根を一足飛びに飛び越えて、我々の眼前に姿を現したのだ。漫画とリアル人物のこれほどの融合は奇跡としか言いようがない。

もはや寿司どころではなくなった。回転している? そんなもん知るか。なにを回しているんだこの店は!だ。
私は、この「世紀の大発見」をどうにかなんとか他者に伝えなければという使命感でいっぱいいっぱいだった。

しかしだ、こっそりと写メを撮ることは道義的に問題があるし、だったら恥を忍んで誠心誠意頼みこめば写真の一枚くらい「ハイハイどうぞ 」と撮らせてもらえるかといえば、ことはそう容易にまとまることとは到底思えない。
寿司もろくに食せず、写メももちろん撮れずで、あたら世紀の逸材を手をこまねいて見ているしかないという不甲斐なさ。先客だった彼女すなわち「恐怖新聞」は、そんな私の思いも知らずにそそくさと店を後にしていったのだった。

写真はなくとも、せめてこの稀な体験を後世に残したい、そんな一心から私はこうして筆をとり、絵日記として表現を試みているのだったが、「そんなもの、ものは描きようじゃん。漫画ならいくらでも似せられっし」と疑いの目を向けられるに違いないことを思うと、本当にもどかしい限りだ。

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後日、一人でS駅に降り立つ私の前に、再び「恐怖新聞」はその姿を現した。
なんと千載は二遇もあったのだ。とはいえ、もちろんなんにもできない私を尻目に、彼女は傍らをすり抜けていってしまったのだった。
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※ この画には若干の誇張がございます。彼女のセリフは作者の想像によります。

山手線S駅に来てごらん。
数日張込めば、きっと「恐怖新聞」に出会えるはずだよ!
そして三遇目を求めて眼をハンターのようにギラつかせている不審人物がいたら、それがきっとボクだよ! (黒板純くん風に読んでくれ) っと。


えーっと、つづく?

by wtaiken | 2012-06-07 22:32

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