ジョー・アンダーグラウンドはなにものか。   

私の遅筆ぶりを痛いくらいに身にしみて知るかつての劇団(百萬弗劇場)の朋友たちが、公開前ではあるが、例えば1回目の日記を読んだとしよう。きっと誰もがこう思ったことだろう。
「続かないね。続かないさ。あれほど筆の遅かった男がだよ、日記とは笑わせるじゃないか。いいとこ次の更新は1月中旬。いいや、もしかして、これで終わったりなんかしてさ。ウププ」
なにがウププだ。甘いぞみんな。見ろ、見てみろ、21世紀に生まれ変わったこの私を。どうだいどうなんだい、1日と空けず書き込んで、すっかり日記らしくなってきているじゃないか。そりゃまぁまだ2日目だけどもさ。

さて、年内の稽古もすでに終了している今、その間ここに記しておくべき急務としてまず筆頭にあげられるのが、やはりタイトルについてだろう。
「ジョー・アンダーグラウンド???」

このHPの役者紹介会田犬の欄に、きっと紹介されているはずなので(まだUP前に書いています)参照いただきたいが、私はタイトルにその都度並々ならぬ力を傾注してきたつもりだ。常々タイトルには、アイキャッチとなるようなインパクトが必要なのだと思っている。
しかもこれまではそのすべての作品において、タイトルが先行し、そのタイトルから物語を創っていったというのだから、自分の事ながら驚きだ。
音楽での詞先(詞がまずあり、それに曲をつける)、曲先(その逆)は耳にするが、芝居でのタイトル先という言葉はあまり聞かない。そりゃそうだろう、そこにはあまりにも危険な匂いがいっぱいだからだ。
自分が突然に「イルクーツクに降り注ぐ雨」というタイトルがいいと思ってしまうXディ、一体その時私はどんな本を書けばいいというのか。
そういう意味では、よくぞこれまで「連続懸垂魔」だとか「大怪獣菫ちゃん」だとか「駅前オスカル」などからそれなりのストーリーを紡いできたものだと、呆れつつも自分を誉めたい。ただ大変は大変だった。やっぱり。

そのタイトル先に懲りたからというわけでもなく、今回はまず書きたいものがある、というごく真っ当な始まりから本は進んでいった。
それはワールドツアーという名のもとに、その旗揚げ公演で世界を終わらせてしまう物語を書くという諧謔の発想だ。
「終わりかけた世界へと旅立ってゆくボクら」そんな発想にグッときて、つけた仮題がサンドラールの小説そのままの「世界の果てまで連れてって」だった。

今年の5月末日、苦渋にあえぎながらもどうにか本を一旦終結させ、いよいよ具体的な公演に向けての制作を始動していくにあたり、やはり正式なタイトルが必要となった。
話の中核に「不思議の国のアリス」をすえた時から、タイトルに「アンダーグラウンド」を使いたいとは思っていた。ただ「アンダーグラウンド」だけでは、どうにも自分の芝居らしさを感じない。“ヴェルヴェット”のような、そこにはなにか、そうだ、ミシンと洋傘の手術台のうえの不意の出逢いのように美しい組み合わせはないものか。

そこでブレインの松原亨に相談した。(早くも常連!)
なにかないだろうか、アンダーグラウンドと面白い取り合わせの言葉って・・・。思案しながら六本木の芋洗坂を徘徊しているその時だ。ふと目に止まったバーの看板に「上・JOE」とあった。なんだか人の名前のような並びにピンとくるものがあり、とりあえず小声でつぶやいてみた。
「ジョー・アンダーグラウンドってのはどうよ」と。
すると松原はすかさず食いついてきたのだ。
「ジョー・アンダーグラウンドって! 上なんすか、下なんすか、どっちなんすか!」

これだよ、いけるんじゃないか。上(ジョー)と言い、すぐさまアンダーと続く。
もうこれだこれしかないこれに決定だと、あの夜はすっかり有頂天になって芋洗坂を浮かれて何度登り降りしたろうか。

しかし人のセンスは様々で、このバカバカしさ加減に他のスタッフはまったく無反応だった。挙げ句の果てに声を揃えてこう言うのだ。
「これ読み進んでいったら出てくるんですかね、ジョー・アンダーグラウンドさんは」
やはりな、そう来ましたか。で・ま・せ・ん! ジョーさんなんて! いつまでたってもね!
こんな調子では、おそらく公演当日のアンケートもジョーさんの話題で持ちきりとなることだろう。
「ジョーさんが最後まで出なくてガッカリ」
「ジョーさんがまるで書けていない台本に失望」
「終始謎のタイトルにほんろうされっぱなしで、結局本の内容、役者の演技どころではありませんでした」
・・・なんとかしなくては。ジョーは上ですじゃあ通用しねえぞ、こりゃ。

いっそのことこれも仮題にして、一から考え直さざるをえないのか。ギリギリの選択を迫られる中で、そのひとつの単語は、本当にポン! と閃いたのだった。
「JAW」。「JOE」でなく「JAW」にしたらどうか。カタカナで表記すれば、謎の人物名にもとれてしまうところはそのままに、これでどうやらタイトルにしっかとした意味がついてくれた。つまり「地下の顎」。
それに合わせてセリフも付け足し、ようやく正式タイトルとして迷いなく決心したのが、実はついこないだの11月のことだったのだ。
チラシやHPでもなかなか見受けないけれど、やっと決めた横文字表記タイトルは、つまりこうだ。
「JAW UNDERGROUND」

さあ、これで理解してもらえたと思う。どう内容に繋がっていくかは、もちろん公演当日をお楽しみにという宣伝もしっかり交えつつ、だからこれから私に対して以下の質問は受けつけないこととする。
「ジョー・アンダーグラウンドってなにものなんすか」
もし言おうものなら言葉尻を待たず私はきっとビンタを繰り出す。そしてこう言い放ってやるのだ。
「読め、オレの日記を!」

by wtaiken | 2004-12-25 06:26

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